映画館で観たのは2023年9月末です。
川口のMOVIXで観ましたが、観客席はガラガラでした。
その後、「君たちはどう生きるか」が米国のゴールデングローブ賞:最優秀長編アニメーション映画賞を受賞して話題になりました。
喪失と冒険
主人公は実母を火事で失って、その後、行方不明となった継母を探しに塔の中へ冒険します。
私も亡き母のことを思い出しましたが、家族の死は大きな喪失感をもたらします。主人公に感情移入しやすい作品でした。
主人公は寝ているときに、母が業火に苦しみながら助けを求めている夢を見ていました。大切な人を災害や事故を失ったりすれば、そういう夢をみるものだと思います。
しかし、「死と生の不思議な世界」の中で、母は火の精霊になっていました。主人公は「母が助けを求めている」という思い込みから解放されます。
冒険する前は自分の想像で苦しみ続けていましたが、冒険をしたことでその苦しみが終わります。
宮崎駿のすごさを感じたセリフ
非常に感銘を受けたシーンがあります。
主人公は失踪した継母を探しに塔に入って、ついに継母を発見します。
目を覚ました継母は、主人公にたいして、「あんたなんか大っ嫌い!」と言うわけです。
自分が産んでない子供を抱えた女性のプレッシャー。不思議な世界では、その気持ちが率直に表現されます。
これによって、主人公にとっては、母親を継母に投影することを拒否されます。母なるものへの憧憬を諦めるしかありません。
唐突に「大っ嫌い!」というセリフが出てくるところに、リアリティを感じます。家族関係の微妙さというか。普通のアニメではぜったいに出てこないセリフですね。
宮崎アニメのすごさを感じました。宮崎駿監督は、頭で計算して映画を作るのではなく、心で作っているのだと思います。
同じようなアニメ映画はたぶん出てこない
この作品のヒロインは、母親(母と継母)です。
死んだ母親は、「死と生の不思議な世界」の中で、少女の姿になっています。
要するに、少年と少女の冒険ものだけど、恋愛ものではないわけです。
映画レビューで「気持ち悪い」と書く人もいました。そういう感想を持つ人はおそらく若い女性だと思いますが、ヒロインが母親なのでそう感じるのでしょう。
「天空の城ラピュタ」で、シータとパズーが母子だったらと連想すると、上記の感想を持った人の気持ちも多少は理解できます。
この映画が賛否両論となるのは致し方ないところ。
おそらく、今後、似たような映画は出てこないでしょう。その意味でも、宮崎駿による渾身の作品となっています。
個人的には、100点満点の傑作だと思いました。
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